子様は、酸つぱいものを酸つぱいといふのは夫れは常識である。しかし能《よ》く味《あぢは》つて見ると、此のお醋は少しく淡《あは》い。水つぽい味がすると申しました。それを聞いたお釈迦様は、醋を酸つぱいといふのは道理だ。酸つぱいが少し淡いと云ふのも最もだ。しかし、よくよく味つてごらん、此のお醋には甘い所があると申しました。そこで最後にキリスト様は、醋は酸つぱいものだ。それに此の醋は淡い。水つぽい。のみならず少し甘い。これは腐敗しかけてゐるのだ。これは打《ぶ》ちまけて、新しく醸《つく》り直すがよい。と、申しました。諸君、抑《そもそ》も此の四聖の言葉は……」
愚助は二時間あまり詳しく説明しました。さあ、それを聴いた村の人達は、大変感心しまして、俄《には》かに愚助を「愚助大和尚」と崇《あが》め奉つて、こんな大和尚様を、こんな古寺に置くのは恐れ多いと云つて、早速お寺の改築に取かかりました。
三年|経《た》つて、お寺が立派に改築出来ました時、和尚様は、ひよつこり帰つて来ました。
和尚様は持つて出た大きな掛物を、やつぱり肩げてゐました。
それは何処へ持つて行つても、大き過ぎると言つて買つてくれる人
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