庭に出て、
「見ろ。今に、こつちの鬼瓦は、火を吹くぞ。さうすると、東山の鬼瓦も、今度こそ、閉口して角を折るにきまつてる。」と、いつて、屋根の上を見てゐました。
 五時五分前になりました。ごん七さんの、家《うち》の庭には、家内も職人も、みんな出て来て、
「今に見ろ。こつちの鬼瓦は、火をふくぞ。そしたら西山の鬼瓦は閉口して、二つに破れて落ちるぞ。」と、云つてゐました。
 五時一分前になりました。もう、たまらなくなつて、東山の方では、
「今に見ろ。」と、どなりました。そのこゑを聞いた、西山の方でも、
「今に見ろ。」と、どなり返しました。
 五時になりました。両方の鬼瓦は、一度に、しゆう、しゆうと、すさまじく火を吹きはじめました。ごん七さんも、ごん八さんも、首をかしげて、かんがへました。

 京一さんと今雄さんとは、あくる日、また学校の裏庭の、桜の木の下で、ひそひそと話しては、笑つてゐました。すると、にはかに、ごう、ごう、と、地の下が、鳴りはじめました。
「京一さん、地震だよ。」と、今雄さんが言つた時、たて物が、がたがたと、動きました。二人は、ひしと、だき合つて、桜の木の下に、立つてゐますと、
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