ました。二人はおほぜいの生徒たちからはなれて、毎日小い紙の旗をもつて、学校のうら庭の、桜の木の下で、ひそひそと、さうだんごとを、してゐました。
 ある日、今雄さんが、おうちへ帰ると、ごん七さんは、大きなこゑで、
「今雄、四階の屋根にのぼつて、うちの鬼瓦に、元気をつけてやれ。そして西山の鬼瓦を、にらみつぶすやうに、いつしよけんめいに、赤旗をふつて応援してやれ。」と、申しました。で、今雄さんは、直《す》ぐ四階の屋根にのぼつて、赤旗をふりました。すると、西山の四階からも、京一さんの白い旗が、ちらちらと、動いて見えました。
 二人はまた学校で、旗のふり方を、さうだんしました。
 ごん七さんは、朝早く起きてみますと、西山の鬼瓦は、朝日を受けて、いきほひよく、こちらを、にらみつけてゐますが、自分のうちの鬼瓦は、うす白く霜をおいて、こごえながら、ふるへてゐるやうに見えました。
 ごん八さんは、夕方|為事《しごと》を終つて、東山の方を見ますと、東山の鬼瓦は、夕日にかがやいて、てかてかと、あか黒く光つて、本当に、かみつきさうに見えますが、自分のうちの鬼瓦は、打ちしをれたやうに、泣がほに見えました。
 ご
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