してある。峠の麓には二十人ばかりの人足が休んで居つた。土を削つた跡や置いた跡を見ると道普請をして居るのである。峠は頗る急峻で、羊膓たる坂路は丁度襖の模樣の稻妻形に曲折して居る。絶壁には所々に棧橋が架けてあつて孰れも皆新規であるのを見ると麓の人足等が造つたのであらう。溪は深い。こゝから落ちたら命は無いだらうと思ひながら登つて行つた。小荷駄馬が揃つてとぼ/\と降りて來る。此峠は會津地方からの唯一の通路であつて、一切の貨物がこのやうに僅に馬背に依つて運搬されるのである。馬は足もとばかりに注意して漸く歩いて居るのであるから、如何にも悠長である。それだから山國の馬は眼からさきに死ぬと世俗にはいふて居る。
峠を下ると三依といふ小村へ出る。立派な街道がある。日光方面から會津への本道だ相である。然しながらしんとして淋しい。右折して進んで行く。駒を曳き連れた博勞が一人やつて來た。素晴しい大きな男で、前へ草鞋を一足ぶらさげて居る。茱萸の大きな枝を持つて毟つてはしやぶり、毟つてはしやぶりつゝ行くのである。二三町行くと少し平垣な所があつて一帶に茱萸の樹が簇生して居る。枝が淺ましいまで折られてある。予も小さな
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