は格別である。浴客のなかには水が良いからだといふものもあつた。僅二三が月の間であるが、まあちやんの體はめつきり大人振つた樣に思はれた。まあちやんは十七であつたのだ。
カルサンを穿いて籠を背負つて宿の者は山から歸つて來た。予が再び尋ねて來やうとは思はなかつたといつてみんなが珍らしがつて喜んだ。内のものが歸つて來てからはまあちやんは一人の時とは違つて、急に勢がついた樣に頻りに笑つたりして居つた。洪水以後客足がばつたり止まつた爲めこんな山仕事をして居る始末で客の用意は少しもないとのこと[#「こと」は底本では「こ」]であつた。其夜は松茸の御馳走になつた。皿も碗も一切が松茸であつた。生來此時程松茸を食つたことはない。
翌朝空が稍曇つて居た。宿の蓙と笠とを借りて出掛けた。旅行の序とはいひながらこんな横道へそれたのもこれからずつとの山奧に山腹が崩壞して湖水が出來たといふことが新聞に見えた爲めである。人は滅多に行かぬに極つて居る、そこを自分が見て來るのだとそんなことが手柄に思はれたのである。凡そ三里ばかり行くと尾頭峠といふ峠の麓へ出る。其間も箒川の蓬莱橋が落ちたのを始めとして洪水の趾は歴々として存
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