々の水は一所に集つて、雲のまだ收まるか收まらぬに鹿股川は濁流が漲るのである。あれといふ間に湯槽の中へ水が押し込んで、うつかりした浴客は衣物も持たずに逃げ出すといふこともある。かういふ時は水底の石と石とが相搏つてどう/\と凄じい響が聞える。こんな現象は予も夏中屡々目撃して寧ろ壯快に感じたのであつた。それも暫時に水は落ちて、其日のうちにも入浴が出來る樣に成つてあとは何の異状をも留めないのであつた。それであるからこんな慘状を呈するまでにはどんな勢であつたらうか想像も出來ないのである。其時は幾日も降り續きて山が崩れたといふ騷ぎ橋が落ちるといふ騷ぎでお客さんは出ることもはいることも出來ないでみんなが毎日こぼして居ましたとまあちやんがいつた。
秋の日はずん/\薄くらくなつた。下流は兩岩の削壁に密樹が掩ひかぶさつて居るため一層凄く見える。浴客が芋をもむ樣にこみ合ふた夏の趣きを思ひ合せると情ない樣である。まあちやんの姿も紺飛白の單衣に襷掛けで働いて居た時とは違つて、洗ひ晒しの半纏は何となく淋し相である。然しながら心切な態度と色の白いのとは變りは無かつた。鑛泉の作用であらうかまあちやんの家族の色の白さ
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