から見える彼等の容貌は極めて美しいものがある。彼等の殆んどすべては謠が上手であるので要りもせぬ毒消しを買うて米山甚句を唄はしたと自慢するものがある位である。遠征隊を組織して出る程あつて彼等は家に在つても勞働が激しいとのことで其角見の濱から出たといふ一人に嘗て聞く所によれば女が十六になつて六斗の米俵が背負ひなければ仲間に交際が出來ぬ程恥かしいとしてある。正月の小遣を得るためには各自に八九貫目の蛸を籠で背負うて夜角田の山を越えて夜明に底樋川を渡つて其川口の内野の市で錢に換へる。それで一睡もまどろむことなしに又山を越えて引つ返すのだといふ。幾十人が打ち揃うて高張提灯を先へ立てゝ聲のかぎり唄ひながら行くのはそれは賑かなものだといつた。秋も彼岸になれば散り/\になつた女群は以前の如く一つになつて關東を後にして去る。其彼岸は既に來つて居るのである。或は女群は今此見える連山の一角を志して越えつゝあるのであるかも知れぬ。驚くべき健脚を奮つて彼等が山坂を辿る時は丁度沖の波がしらが搖る如くに打ち揃うた幾十の白い爪折笠が高低しつゝずん/\と進んで行くのであらう。山坂幾つ攀ぢ盡して此蒲原の平野が表はれた時には
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