も思ひましたが、さうでもありません。併しその物音は別段に近づいて來るのでもなく、又去らうとするのでもない樣でした。庄次は少し恐ろしく成つて蒲團を被りました。さうして又そつと耳を澄ましました。すると何となくかさ/\といふやうな音が聞えるのであります。暫くたつてそれが止んだと思ふ頃庄次は目を開いて見ました。少し月の光が疎《うと》く成つたと思ふやうでも、まだ瓜畑には一杯の明るさであります。蚊帳越しではありますが彼の目には白い瓜がやつぱり目に映るのでありました。木戸の外は垣根のやうな蜀黍が遮つて何物も見えないのであります。で間もなく夜が明けました。
 翌る朝になつて庄次は畑を隈なく見ましたが瓜は一つも盜まれてはありません。次の夜も又番をしましたが、さういふことがありました。庄次には合點が行きません。彼れは人からよく能くいひ觸らされてるやうに貉か狸の惡戲ではないかとまで思ひました。然し誰にもいひはしませんでした。
 然るところ其次の夜は元のやうに爺さんが泊りました。木戸口のこそ/\といふ音は爺さんの耳にも響きました。耳敏い爺さんは凝然《じつ》と枕を欹《そばた》てました。これまで數次かうして惡戲好
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