を探しに歩くのであります。彼等はそれ相應に女に好かれようとして服裝《みなり》に心を苦しめるのであります。何處の村落にも兵隊歸りが彼等の間に異色を帶びて居ます。それが彼等の風俗を變化させるのであります。
 併しながら庄次はさういふ仲間と表面は甚だしい疎遠《ちがい》はなくてもそれに感染《かぶ》れるやうなことは苟且《かり》にもありませんでした。彼は八釜敷い爺さんの躾を受けて幼少の時分から農作に我が趣味の全部を奪はれて居たのであります。
 この夜彼れは自分の職業の趣味といふ事を理窟なしに感じて居ました。庄次は番人といふ責任を考へて居たので平生とは違つて眠くはならなかつた。で毎日行く市場のことなどを考へて居ました。夜が深けるに隨つて空氣の凉しさが一しほ沈んで身にせまつて來るかと思ふと、周圍の蜀黍の葉は猶更にこの番人を眠らせまいとするやうに酷くざわ/\と騷ぐのであります。其度毎にだぶ/\の蚊帳の裾が吹きまくられて、時々彼れの頬をさすりました。そして耳がだん/\冴えて來ますと、彼はすぐ自分の小舍に近い木戸口のあたりに何かは知らぬが、こそ/\と音がしては又止むのを聞きました。彼れは心の所爲《せゐ》かと
前へ 次へ
全15ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング