保つて、共につゝましく麥藁の上に横はります。兩《ふたつ》の瓜は唯相隣して互に見合うて居るばかりでありました。爺さんは瓜がいゝ加減の大きさに成れば其瓜を蔓から切り放して粗末な籠へごろ/\と投げ込みます。成熟した兩の瓜はかうして爺さんの無雜作な手によつて毎日數多の結婚が成立して居ました。
 暑い日が麥藁の上に横はつて居る瓜の膓《はらわた》までも熱しては、夜の凉しさが冷たく潤しました。瓜畑の周圍に蒔かれた玉蜀黍はすつくりと立つて美しい瓜を守つて居ます。玉蜀黍の莖には横に竹を結んで自然に垣根が造られました。穗先のざらけた玉蜀黍は何事にもざわ/\と騷ぐのであります。瓜畑の隅には疾から小舍が建てられて、小舍には不相應な大きな蚊帳が吊られました。爺さんは毎晩そこへ起臥《おきふし》をするのであります。瓜の番は爺さんの役目で瓜を市場に運ぶのは庄次の日毎の役目であります。闇の夜が續いてそれから月の夜が續きました。或晩爺さんに何かの故障が有つたと見えて庄次が小舍の番をすることに成りました。
 瓜小舍に泊るのは何といつても夜は眠い庄次に、適した役目ではありません。然し庄次は眠いからといつて眠ることはしません。
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