のであります。それから更に酒粕へ上手に蓄へられゝば迚ても西瓜や甜瓜の遠く及ばない價を保つて珍重されるのであります。白いのは白瓜で青いのは青瓜であります。隣合つた青瓜と白瓜とはずん/\手を伸ばして其細いくるくると卷いた髭のやうなもので、互に握り合ふばかりに成りました。
 さて隅から隅まで注意を怠らない爺さんは伸ばさうとする蔓の先をみんな穢い爪の先で摘んで棄てゝ畢ひました。青い瓜も白い瓜も伸び出した葉の間に椎の實のやうな瓜の形を見せて、其の側に立てた尻に花が開くと其處から、爺さんは蔓の先を摘んで畢ふのであります。さうすると其の小さな瓜が必ず滿足に生長して行きます。さうでなくて氣儘に任せて置くと小さな瓜はどうかするといゝ加減の大きさに成つてぼろ/\と落ちて畢ふのであります。
 瓜はかうして始終|窘《たしな》められて居ますが、一方には又一番必要な肥料といふものが爺さんの周到な用意で幾ら吸うても吸ひ切れない程十分に與へられてあります。それで生氣の衰へない瓜は何處からでも蔓を吹き出します。爺さんは又|根《こん》よくそれを摘んで止《と》めます。かうして白瓜はどこまでも白く、青瓜は油ぎつたつやゝかさを
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