間には瓜の種を蒔きつける場所をぽつ/\とあけて置きます。爽かな凉しい風が麥の軟い穗先を吹いて、空氣にも土にも潤ひを帶びて來ると、庄次の家の瓜の種も麥の明間へ二葉を開いて來ます。段々眞直に射し掛ける日光が十分の熱度を與へてくれますし麥はまた周圍から大切に保護してくれます。それでも非常に敏《さと》い赤蠅がそつと來ては軟かな子葉《め》を舐め減すので、爺さんの苦心は容易ではありません。虫を除ける爲に瓜の葉へ灰を掛けて遣つたり、幾度か失敗しつゝ敏捷な蠅を殺したりしてやるのであります。
麥が刈られると周圍はからりとして如何にも晴々とした心持で、瓜の蔓が威勢よくずん/\と伸びて行きます。蔓の先は軟かでそしてすつと頭を擡げて居る處が、見るから心持のいゝものであります。然しそれでも十分監督がないと赤蠅は依然舐めて畢《しま》はうとするのであります。瓜の蔓に處々へ開いて行く葉の間から小さな花がぽつ/\と見える頃になれば、瓜畑はもうだん/\心配がありません。
麥藁が一杯に敷かれて蔓は其褥を這うて居ます。殊に威勢のいゝのは西瓜の蔓で唐草模樣の樣な葉を一杯に開きます。小粒の實が初めは然程《さほど》にもないのに
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