も事實を吐かせようとする餘裕さへ起らなかつたのであります。彼は只地主から非常な譴責《しかり》を受けたいのでありました。怪しからぬ事だ、不都合千萬な伜だ、貴樣の仕つけがよろしくないからかういふ事を仕出かしたのだと散々に叱られてさうして自分自身の噪ぐ心を落付けさせたいのでありました。これが爺さんの心の願ひでした。
 爺さんの詫言を聞いた地主は有繋にそんなことがあつたかと一度は駭いたのでありましたが、どうか世間に襤褸を出したくないといふ考が第一に其心に湧きました。そこで地主はそつとお杉を呼んで聞いて見ましたが、お杉は俯向いた儘萎れて何にもいひませんでした。爺さんからきつぱりとした噺を聞された地主の心にはもう直ぐに「判斷」がつきました。さうしていつそのこと、そんな事に成つたならお杉は庄次へ嫁に遣らうといふことに極めたのであります。
 庄次は見處の有る人間であるといふのが地主の心を動かしたのであります。併しながら今の儘では行つた娘も可哀想だから、どうにか食つて通れる丈の田畑も其身に附けてやらうといふのであります。尤も其の事は其日の内に極つたのではありませんが、段々と家内相談があつて自然とさう成り
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