も手繰るんだからな、ヲダなんぞへ引ツ掛つちや酷いぜ、切れツちまふから、ヲダか鯉なんぞ捕るやうに棒杭を打ち込んでおくんだ、そのなかへもぐり込んだのを網を卷いてとるんだ、それへ引つ掛るとひどい話よ、捕れる時にや四斗樽で四五十本宛もとれるんだがことしは捕れねえな、おまけに安いんだ、世間が不景氣だからな
 彼も不景氣のために苦しめられる一人と見える、
「ダイトク網は凪ぎでなくツちや曳かれねえ、風のある日にやまた別な小せえ網だ、艫へつゝけて一里も一里半も流れるんだ、こいつぢやいくらも這入らねえ、けふらも出なくつちやならねえんだがどうして出ねえかよ
 と口不調法なる彼の話は剥き出しである、余はダイトクモツコのことを能く呑み込みたいと思つたのであるが、話下手な彼の口からは到底十分に知ることは難いのである、彼は更に語りついだ、
「向うに明りの見える村な、あすこにもダイトクモツコが一つあるんだ、それからずつと向うの方にも一つあるんだがなか/\土用中澁の二三百兩も呉れなくつちや成らねえんだから手入が屆かねえで、さあると切れるやうなモツコで捕つてるんだ、それにだまされて賣られたりなにつかして駄目よ、網元なん
前へ 次へ
全9ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング