いためる心いゆる時あれや

ま悲しき花は山茶花日にしてはいくたび見つる思ひかねては
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 大正三年

    鍼の如く 其の一

     一

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秋海棠の畫に
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白埴の瓶こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり

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りんだうの畫に
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曳き入れて栗毛繋げどわかぬまで櫟林はいろづきにけり

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夜半ふとおどろきめざめて
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無花果に干したる足袋や忘れけむと心もとなき雨あわたゞし

     二

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上州入山の山中にて
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唐黍の花の梢にひとつづゝ蜻蛉《あきつ》をとめて夕さりにけり

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歸路
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うなかぶし獨し來ればまなかひに我が足袋白き冬の月かも

たもとほり榛が林に見し月をそびらに負ひてかへり來われは

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博多所見
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しめやかに雨過ぎしかば市の灯はみながら涼し枇杷堆し

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