肥後に入る
[#ここで字下げ終わり]

球磨《くま》川の淺瀬をのぼる藁船は燭奴《つけぎ》の如き帆をみなあげて

     三

山吹は折ればやさしき枝毎に裂きてもをかし草などの如

西瓜割れば赤きがうれしゆがまへず二つに割れば矜らくもうれし

菜豆《いんげん》はにほひかそけく膝にして白きが落つも莢をしむけば

そこらくに藜をつみて茹でしかば咽喉こそばゆく春はいにけり

おしなべて白膠木《ぬるで》の木の實鹽ふけば土は凍りて霜ふりにけり

枳※[#「木+惧のつくり」、第4水準2−15−7]《けんぽなし》さびしき枝の葉は落ちて骨ばかりなる冬の霜かも

楢の木の嫩葉は白し軟かに單衣の肌に日は透りけり

芝栗の青きはあましかにかくに一つ二つは口もてぞむく

松が枝にるりが竊に來て鳴くと庭しめやかに春雨はふり

草臥を母とかたれば肩に乘る子猫もおもき春の宵かも

移し植うと折れたる枝の錢菊は※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]すにこちたし棄てまくも惜し

藁の火に胡麻を熬るに似て子雀《こがらめ》の騷ぐ聲遠く霧晴れむとす

洗ひ米かわきて白きさ筵に竊に椶櫚の花こぼ
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