れ居り
楢の木の枯木の中に幹白き辛夷はなさき空蒼く濶し
四
落栗は一つもうれし思はぬにあまたもあれば尚更にうれし
秋の日は枝々洩りて牛草のまばら/\は土のへに射す
柿の樹に梯子掛けたれば藪越しに隣の庭の柚子黄み見ゆ
雀鳴くあしたの霜の白きうへにしづかに落つる山茶花の花
藁掛けし梢に照れる柚子の實のかたへは青く冬さりにけり
倒れたる椎の木故に庭に射す冬の日廣くなりにけるかも
梧桐の幹の青きに涙なすしづく流れて春雨ぞふる
冬の日はつれなく入りぬさかさまに空の底ひに落ちつゝかあらむ
桑の木の低きがうれに尾をゆりて鵙も鳴かねば冬さりにけり
五
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病院の生活も既に久しく成りける程に四月廿七日、夜おそく手紙つきぬ、女の手なり
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春雨にぬれてとゞけば見すまじき手紙の糊もはげて居にけり
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五月六日、立ふぢ、きんせん、ひめじをんなどくさ/″\の花もて來てくれぬ、手紙の主なり、寂しき枕頭にとりもあへず
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藥壜さがしもてれば行春のしどろに草の花活けにけり
[#ここ
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