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病院より旅宿とありける間は夜具を干しくるゝ人もなかりけるを、ひと日母が手して竿に掛けさせければ我も日毎にかくしつゝ
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日に干せば日向臭しと母のいひし衾《ふすま》はうれし軟かにして

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日に疎き庭は土質悪しければ、冬の程には箒もあて難きに杉の大木聳え立ちたれば落葉もいたく亂れにけるを
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あまたあれば杉の落葉のいぶせきに梅の花白しそのいぶせきに

杉の葉の梅の木にして懸れるを見つゝ佇むそのさゆらぐを

掃かざりし杉の落葉を熊手もて掻かしめしかば心すがしき

我がさとはかくしもありき庭にして落葉掻き集む梅さへ散るに

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三月十三日、朝のほど雨ふる
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外に立てどいくだもぬれぬ春雨を棕櫚の葉に聞く外に立ちしかば

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雨はやがて雪にかはりたれば寒さ身にしむに母と相對して火鉢に手を翳す
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桑の根の炭はいぶせし火を吹くと皮がはねつる吹かなくてあらむ

    病中雜咏(補遺)

いたづきは癒えなむのぞみありぬべし
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