おもひ出でられて
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我さへにこのふる雨のわびしきにいかにかいます母は一人して
いさゝかのゆがめる障子引き立てゝなに見ておはす母が目に見ゆ
張り換へむ障子もはらず來にければくらくぞあらむ母は目よわきに
こゝにしてすゝびし障子懷へれば母よと我は喚ぶべくなりぬ
※[#「耒+婁」、第4水準2−85−9]斗菜を母と二人が見てし日は障子はいまだ白かりしかど
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病室の内に雨を聽き暮して明くればまだきに彼の山茶花のもとに思ひ煩ひて
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からくして低きが枝にのこれりし山茶花のはな散りにけるかも
山茶花のはかなき花は雨故に土には散りて流されにけり
山茶花のあけの空しく散る花を血にかも散ると思ひ我が見る
山茶花はむなしくなりぬ我が病癒えむと告ぐる言も聞かなくに
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仔細に見るに葉の間に半開の蕾只一つすがりたるがいとほしくて
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山茶花よそをだに見むと思へるに散らなくあれな我が去ぬるまでに
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二月廿日といふに漸く病院を出づ、七十八日の間我を慰めし花は只一
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