[#ここから6字下げ]
尚さま/″\におもひつゞけて
[#ここで字下げ終わり]

我を思ふ母をおもへばいづべにかはぐゝもるべき人さへ思ほゆ

我病めば母は嘆きぬ我が母のなげきは人にありこすなゆめ

生命あらば見るよしもあらむしかすがに人やも母といはゞすべなし

我がおもふ人はさきはへ世の中のなべての母は皆嘆けども

おもかげに母おもひ見れば人遂に母たりなむと思ひ悲しも

我が母の肉《しゝ》のゆるびは嘆き故あを思ふ故にわれすべもなし

[#ここから6字下げ]
一月廿六日、彼の袱紗ゆくりなく手にとることありしに、糸巻の型の染め抜かれたるが今更に目に映れば
[#ここで字下げ終わり]

とこしへに解かむすべなし苧環《をだまき》のあまたはあれど手にもとれねば

[#ここから6字下げ]
をだまきといへばすゞろに懷しき故郷の庭なる※[#「耒+婁」、第4水準2−85−9]斗菜のうへにも及びぬれば
[#ここで字下げ終わり]

あまたゝび冬には逢へど枯れざりし庭の※[#「耒+婁」、第4水準2−85−9]斗菜《をだまき》かれなくてあれな

[#ここから6字下げ]
此の日、ひねもすに雨ふる、なにごとにも母の
前へ 次へ
全44ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング