べし

わびしくも痩せたる草の刈萱は秋海棠の雨ながらみむ

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日ごろは熱たかければ、日ねもす蒲團引き被りてのみ苦しみける程に、もとより入浴することもなかりけるが、たまたま十八日の朝まだき、まださくやらむと朝顔のあはれに小さくふゝみたる裏戸をあけていでゆく
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浴みして手拭ひゆる朝寒みまだ蕾なり其のあさがほは

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小さき蚊帳のうちに獨りさびしく身を横たふるは常のならはしにして、また我が好むところなるに、ましてこゝは藪蚊のおほきところなれば只いつまでも吊らせてありけるが
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幾夜さを蚊帳に別れてながき夜のほのかに愁し雨のふる夜は

古蚊帳のひさしく吊りし綻びもなか/\いまは懷しみこそ

     三

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吸入室の窓のもとに、一坪ばかり庭の砂掻きよせて苗を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]してありけるが、夏の日にも枯れず、秋もたけて漸く一尺餘りになりたればいまは日ごとに目につくやうになりけるを、十一月十一日、折から時雨の空掻きくもりて騷がしき
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