生迫の漁村にもどる、此の夜おもひつゞくることありてふくるまで眠らず
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草に棄てし西瓜の種が隱《こも》りなく松虫きこゆ海の鳴る夜に
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八日、陰晴定めなき季節のならはし、雨をり/\はげしく障子を打つ
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横しぶく雨のしげきに戸を立てゝ今宵は虫はきこえざるらむ
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九日、再び時化になりたればまた宮崎にのがる、人のもとにて梨瓜といふを皿に盛りてすゝめらる、此の地方西瓜と共に瓜を産することおびたゞし
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瓜むくと幼き時ゆせしがごと竪さに割かば尚うまからむ
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十三日、漸く折生迫にもどれば同人の手紙などとゞきて居たるを一つ/\と披きみてはくりかへしつゝ
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とこしへに慰もる人もあらなくに枕に潮のをらぶ夜は憂し
むらぎもの心はもとな遮莫をとめのことは暫し語らず
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夜は苦しき眠りに落つるまで、虫の聲々あはれに懷しく
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こほろぎのしめらに鳴けば鬼灯の庭のくまみをおもひつゝ聽く
こほろぎは
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