夜はへなば涼しかるらむ

月見草けぶるが如くにほへれば松の木の間に月缺けて低し

[#ここから6字下げ]
八月一日、病棟の蔭なる朝顔三日ばかりこのかた漸くに一つ二つとさきいづ
[#ここで字下げ終わり]

嗽ひしてすなはちみれば朝顔の藍また殖えて涼しかりけり

[#ここから6字下げ]
三日夕、整形外科の教室の蔭に手をたてゝおびたゞしく絡ませたるをはじめてみて知る、餘りに日に疎ければ
[#ここで字下げ終わり]

朝顔の赤は萎まずむき捨てし瓜の皮など乾く夕日に

[#ここから6字下げ]
四日
[#ここで字下げ終わり]

あさがほの藍のうすきが唯一つ縋りてさびし小雨さへふり

[#ここから6字下げ]
彼の垣根のもとに草履はきておりたつ
[#ここで字下げ終わり]

朝顔のかきねに立てばひそやかに睫にほそき雨かゝりけり

[#ここから6字下げ]
六日
[#ここで字下げ終わり]

かつ/\も土を偃ひたる朝顔のさきぬといへば只白ばかり

    鍼の如く 其の五

     一

[#ここから6字下げ]
八月十四日、退院
[#ここで字下げ終わり]

朝顔は蔓もて偃へれおもはぬに榊の枝に赤き花一つ


前へ 次へ
全44ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング