は衣を透せどもききやうの花はみるにすがしき

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廿四日の夕なり、たま/\柵をいでゝ濱邊に行く、群れ居る人々と草履ぬぎて淺き波にひたる、空の際には暗紫色の霧のごときがたなびきたるに大なる日落ちかゝれり、凝視すれども眩からず、近くは雨をみざる兆なり
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抱かばやと没日のあけのゆゝしきに手圓《たなまど》さゝげ立ちにけるかも

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渚をとほく北にあたりて葦茂りて草もおひたれば行きて探りみんとおもへどこのあたり嘗てなでしこをみずといひにければ
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おしなべて撫子欲しとみえもせぬ顔は憂へず皆たそがれぬ

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構内にレールを敷きたるは濱へゆくみちなり、雜草あまたしげりて月見草ところ/″\にむらがれり、一夜きり/″\すをきく
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石炭の屑捨つるみちの草村に秋はまだきの螽※[#「虫+斯」、第3水準1−91−65]なく

きり/″\すきかまく暫し臀据ゑて暮れきとばかり草もぬくめり

きり/″\すきこゆる夜の月見草おぼつかなくも只ほのかなり

白銀の鍼打つごとききり/″\す幾
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