水を被りて
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糊つけし浴衣はうれし蚤くひのこちたき趾も洗はれにけり

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涼味漸く加はる
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松の木の疎らこぼるゝ暑き日に草皆硬く秋づきにけり

     三

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二十三日、久保博士の令妹より一莖の桔梗をおくらる、枕のほとり俄かに蘇生せるがごとし
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さゝやけきかぞの白紙爪折りて桔梗の花は包まれにけり

桔梗の花ゆゑ紙はぬれにけり冷たき水の滴れるごと

桶などに活けてありける桔梗《きちかう》をもたせりしかば紙はぬれけむ

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目をつぶりてみれば秋既に近し
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白埴の瓶に桔梗を活けしかば冴えたる秋は既にふゝめり

しらはにの瓶にさやけき水吸ひて桔梗の花は引き締りみゆ

桔梗を活けたる水を換へまくは肌は涼しき曉《あけ》にしあるべし

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我は氷を噛むことを好まざれど
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暑き日は氷を口にふくみつゝ桔梗は活けてみるべかるらし

氷入れし冷たき水に汗拭きて桔梗の花を涼しとぞみし

すべもなく汗
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