ぎけり

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夜になれば我がためにのみは必ず看護婦の來て※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]をつりてくるゝが例なり
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※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]釣るとかやつり草を外に置くが務めなりける我は痩せにき

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燬くが如き日てりつゞけばすべての病室のつきそひの女ども只洗濯にいそがはし
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粥汁を袋に入れて糊とると絞るがごとく汗はにじめり

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おもひ待てども蝉の聲をきかず
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板のごと糊つけ衣夕まけて松に乾けど蝉も鳴かぬかも

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庭の松の蔭に午後に成れば朝顔の鉢をおくものあり、他の病室の患者の慰めなりといへどもひとの枕のほとり心づかざれば未だみしこともなく
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朝まだき涼しき程の朝顔は藍など濃くてあれなとぞおもふ

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僅に凌ぎよきは朝まだきのみなり
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蚤くひの趾などみつゝ水をもて肌拭くほどは涼しかりけり

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夕に汗を流さんと一杯の
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