もなき撫子の花

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此のをみなすべてのものゝ中に野にあるなでしこを第一に好めるよしいひければ
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なでしこの交れる草は悉くやさしからむと我がおもひみし

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壜に活けたるまゝにして
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なでしこの花はみながらさきかへて幾日へぬらむ水減りにけり

なでしこはいまは果敢なき花なれど捨つと言にいへばいたましきかも

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二十日の夜ひとつには暑さたへがたくして夜もすがら眠らず、明方にいたりて蛙の聲を聞く
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快くめざめて聽けと鳴く蛙ねられぬ夜のあけにのみきく

さわやかに鳴くなる蛙たとふれば豆を戸板に轉ばすがごと

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朝のうち必ず一しきりはげしく咳出づることありて苦しむ
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曉の水にひたりて鳴く蛙涼しからんとおもひ汗拭く

     二

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蚊帳釣草を折りて
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暑き日はこちたき草をいとはしみ蚊帳釣草を活けてみにけり

こゝろよく汗の肌にすゞ吹けば蚊帳釣草の髭|殺《そよ》
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