思の限り長き手紙に筆執りて、生涯の願いま一たびおとづれ給ひてんやと書きつけゝるを、夜もすがら思は掻亂れて、明くれば痛き頭を抑へつゝ庭の寒き梢に目を放ちて
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四十雀なにさはいそぐこゝにある松が枝にはしばしだに居よ
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袱紗の地はつゆ草の花のいろなるを、人は鬼怒川のみなかみに我とおなじ西岸に棲めれば、想を故郷の秋に馳するに、なよ/\とせるつゆ草の馬の腹七たび過ぐれども根は絶えずなど俚言に聞きけることもいまはなか/\に懷しく
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鬼怒川の篠に交れる鴨跖草は刈る人なしに老ゆといはずやも
鬼怒川の岸のつゆ草打ち浸りさゝやくことは我はきけども
鴨跖草を岸に復た見ば我が思ふ人のあたりゆ持てりとを見む
いまにして人はすべなし鴨跖草《つゆぐさ》の夕さく花を求むるが如
つゆ草の花を思へばうなかぶし我には見えし其の人おもほゆ
からまるを否とたれかいふ鴨跖草の蔓だに絡め我はさびしゑ
病みてあればともしきものかつゆ草は馬がはめども枯れなくといふに
鴨跖草の種はあまたもこぼれども我がには生えずなにゝかはせむ
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