なうれひそと人はいへどもまたけくてあらばかあらむ我愁ひざれや

人は我ははかなきものかひたすらに悲しといふもわがためにのみ

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病院の一室に年を迎へて
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我が命としほぎ草のさち草の日蔭《ひかげ》の蔓《かづら》ながくとをのる

衰ふる我が顔さびしこゝにだにあけに映えよとあけの紙|貼《は》る

    病中雜咏
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明治四拾四年十二月廿四日、ふと出でありくことありて此の日ばかり夜に入りて病室に歸り來れば、むすびし儘に派手なる袱紗のつゝみ一つ電燈のもとにおかれたり、怪みて解きみれば我が爲に心づくしの品は出できにたるに、赤きインキもて書かれし手紙も添へられつ、四たびまで立ち入りがてに病院の門を行き過して、けふ始めておとづれきといふに思ひ設けぬことなれば待たんやうもなく、今は悔ゆれども及ばずなりぬ、されどわれ生れて卅三年はじめて婦人の情味を解したるを覺えぬ、我は感謝の念に堪へず、其の人一たびは我と手を携ふべかりつるに悪性の病生じたれば我に引き止めむ力もなく、斯くて離れたるものゝ合ふべき機會は永久に失はれ果てぬ、其の夜はふくるまで
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