ちにけり土に流れて涼しき朝を
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寢臺の下のくらきを拂ふこともなく看護婦のよひごとに釣りければ蚊帳の中に蚊おほくなりて、此の夜もうつらうつらとしてありけるほどふけゆくまゝに一しきり交々襲ひきたれるに驚く
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ひそやかに蟄さむと止る蚊を打てば手の痺れ居る暫くは安し
聲掛けて耳のあたりにとまる蚊を血を吸ふ故に打ち殺しけり
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七月一日、朝まだきにはじめて草履はきておりたつ、構内に稍ひろき松林あり、近く海をのぞむ
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月見草萎まぬ程と蛙鳴く聲をたづねて松の木の間を
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柵の外には畑ありて南瓜つくることおほし、我酷だこの花を愛す
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唯ひとり南瓜畑の花みつゝこゝろなく我は鼻ほりて居つ
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前後に人もなければ心も濶き松の林に白き浴衣きたりけることの故はなくして只矜りかにうれしく
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朝まだきまだ水つかぬ浴衣だに涼しきおもひ松の間を行く
只一つ松の木の間に白きもの我を涼しと膝抱き居り
ころぶしてみれば梢は遙かな
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