かり足駄の齒にわびしけれど心ゆくばかりのながめせんとてまたいでありく
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鉈豆のもの/\しくも擡げたるふた葉ひらきて雨はふりつぐ

車前草《おほばこ》は畑のこみちに槍立てゝ雨のふる日は行きがてぬかも

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庭の枇杷ことしばかりはめづらしく果おほし
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枇杷の木にみじかき梯子かゝれどもとるとはかけじいまだ青きに

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雨をよろこぶこゝろを
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蕗の葉の雨をよろしみ立ちぬれて聽かなともへど身をいたはりぬ

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我が草苺を好むこと度を知らずともいひつべし、未だ甚だしく體力の衰へざりし程は一度に五合にのぼらざれば胸の爽かなるを覺えず、然かも日に幾たびとなくこれをくりかへして飽くこともなかりき、さるをことしは家を離れて久しくなりけるに市場に出でたるは嘗て手にだも觸れむとせざれば、日頃はさびしくあかしけるが、いまはうれしきは門の畑なり
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たらちねは笊もていゆく草苺赤きをつむがおもしろきとて

幾度か雨にもいでゝ苺つむ母がおよびは爪紅をせり


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