のおもふことありけるに明日の疲れおそろしければ、好まざれども睡眠劑を服す、入院以來これにて二度目なり
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うつゝなきねむり藥の利きごゝろ百合の薫りにつゝまれにけり
六
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病牀にひとりつれ/″\を慰めむと、柾《まさ》といふ紙を求めて四方の壁をいろどりしが
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壁に貼りしいたづら書の赤き紙に埃も見えて春行かむとす
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貧しき人々の住む家なれば、棟にあまた草生ひたれども嘗てとることもなきぞと見ゆるに
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窓の外は甍ばかりのわびしきに苦菜《にがな》ほうけて春行かむとす
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窓の硝子は朝ごとに拭へども、そともは手もとゞかねばいさゝかの曇りなれども晴るゝこともなし、春暮れむとして空さだまらず
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硝子戸の春の埃をあらはむと雨は頻りに打ち注ぎけり
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窓を壓して梧桐の木わだかまれり、はじめのほどに
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春雨になまめきわたる庭の内に愚かなりける梧桐の木か
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と
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