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ひたちなる浪逆の浦は。あるみなす浪のさわげば。薦槌の往き交ふ舟の。舟人のまもりのためと。うなじりの小門にまつれる。八尺鳥息栖の宮は。みなぞこゆ八尋の柱。太知れるとり居が下を。忍穗井の水とよばひて。さす潮のさして引けども。ひく潮の引きてさせども。わく水の淡くたゝへて。石上ふるのむかしゆ。ありさりし甕のへみれば。女の瓶はふかくこもらひ。男の瓶はおほにしあれば。つばらかに見むと思ひて。掻き鳴すやこをろ/\に。竿とりに探りみるべく。かしこきろかも

      短歌

小鹽井の鹽井の水につき立てる息栖のとり居みるがたふとさ

     うみ苧集(四)

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にはにある楓の木のいろ付きたるを見てよめる(三十四年八月作)
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水不足あか田くぼ田に。もとほらひすじつま呼ぶ。蛙手の木々の木ぬれは。秋さればもみつとを言へ。みな月のけふのてる日に。こゝに匂へる。

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五月雨もいつしかはれて土用ともなれば日々にあつけくなりまさりてたへがたくおぼゆるものからなほ涼しさの求めてえがたきことのあらめやはとおもひつゞけてよめる
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竹箒手にとり持ちて散り松葉あさな/\に掃くがすゞしさ

鋸のわたる椚の切杙のわか木むら立ちたつがすゞしさ

かぎろひのゆふつみ茄子さく/\に菜刀もちて切るがすゞしさ[#ここから割り注](菜刀は方言なり包丁をいふ)[#ここで割り注終わり]

ところづらませがおどろを刈りそけて足うらしみゝにふむがすゞしさ

穴ごもりくろ行く螻蛄の夕さればころゝ/\になくがすゞしさ

にはつとりかけのかひこに根芽つなぎはつなる瓜のなるがすゞしさ

こも槌のかたみに包む皮剥げて竹の肌をみるがすゞしさ

いた/\し左枝がうれに玉むすぶ青|山椒《はじかみ》を噛むがすゞしさ

手握の弓のたわめる皀莢のさゆら/\にゆるがすゞしさ

末つみにつむや藜をとり茹でゝ手桶の水にさすがすゞしさ[#ここから割り注](さすは方言にしてさらすの意なり)[#ここで割り注終わり]

     あまだれものがたり抄

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いまはむかしからたちのかなひことなむ呼べるしれ人ありけり、くさ/″\のことにかゝづらひければ知り人あまたいできにけり、いつのころにかありけむ、法師ひとりゐてきにけるが、またなきひじりにて在しければ、よろづのことわきまへあきらめずといふことなし、さみだれの雨ふりつづきて、いとつれ/″\しきに、この法師かひなうちさすり脛かきなでなど、こと/\しうしてありけるが、いかで人みなのために吾ひめ力こゝろみてむなど、きこえくるほどに、鎌とり鍬うちふりて、いばらづらさく/\にきりひらき、林つくりなむとさま/″\の木などおほしけるを、ありがたきひじりの行ひかなと人々ゐやまひかしこみけるに、なべての木こと/″\く木末を下にしてぞさしたまひける、心えがたくおもふものから、人々たゞもだしてのみぞありける、こゝにおなじ縣の片ほとりに住みけるなにがしの小さ人といふものありけり、心おろかなりければ、法師のことゞもさら/\に知らずてのみありき、かやまのまなかひまろといふ人いやとほにへなりけるが、はろ/″\にきこえければ、小さ人きゝおどろきて心あわたゞしうさぐり見て、小さ人がよめりける
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あがたもよ吾住むあがた。いばらづらい刈りひらき。ほふしのなすや手わざを。上行くとあぜこえいゆき。から/\に蛙はなき。下行くと穴穿りいゆき。ころ/\に螻蛄ははやす。けらだにもしかこそはやせ。蛙だにかくこそなけ。吾はもや小さ人。吾耳はかけ樋の小筒。そこなしにたまらぬかも。人言はとまらぬかも。しかれこそ知らずありけめ。小林に入りてみまくと。いり見まくよりしよらめや。逆生《さかなり》のをはやし。

     賀擧子

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人の子をあげたるをよろこびてよめる
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鍬持つ手土につくまで。くさぎるや畠の殖蒜《うゑひる》。殖蒜のうらべにむすぶ。その玉に似てをあれし子。平らけく安くありこせ。父母のため。

     うみ苧集(五)

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茸狩をよめる歌并短歌
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筑波嶺は面八つあれど。的面は杉深み谷。背面は笹深み谷。ひむがしは巖立つ峰と。峰の上は攀ぢても見ず。谷のへは探りても見ず。酒寄の青嶺が下を。和阪の吉阪と別きて。つどひくる少女男の。立ちならし小松が根ろに。茸狩るといそばひすもよ。秋の日をよみ。

     短歌
少女子の小松が根ろに茸狩ると巖阪根阪踏みならすらし

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吾父ひとのことにかゝづらひて一たびは牢の内にもつながれけるが三とせになれどもことのうたがひははれず
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