の永日を。いそばひに蓬は摘むと。よもぎ苗あかずつますと。小鍬とり打つやあら埴の。さくろにな日にはてらえそ。蓬摘む子ら。
       ○
しら/\し白けたる夜の。李ちる朧月夜を。穴こもるたはれ狐か。荊づらすく/\と出て。うまいする兄彦が家の。廚なる鍋とり持ち來。柿の木の枝にそを掛け。そねの木の枝にそを掛け。よひ/\にたはれすらくを。小竹撓めて罠かけ待てど。さやらねば兄彦思ほえ。その狐手捕にせむと。荊分け鋤とりい行き。腰惱むおどろが下に。くたれ木の木の根堀り來つ。狐え捕らず。
       ○
小墾田をかへでの枝の。赤芽吹く春日のどけみ。いめのわたうつらうつらに。肱付きにまろねをすれば。爪引くや弓絃のひゞき。ひゞくなす諸羽振らばひ。虻のとぶかも。

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三月二十四日風雪を冒してとほく多珂郡に行く乃ちよめる歌并短歌
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物部の真弓の山の。尾の上には人さはに据ゑ。谷邊には人さはに据ゑ。巖根裂く音のみ聞きし。諏訪村の梅さきけりと。とほ人の吾に告らせば。燃ゆる火の焔なす心。包めども包みもかねて。をとつ日の雨降る日の。きその日の雪降る日の。今日までにけならべ降れど。時經なば散りか過ぎむと。行き惱み吾はぞ追へる。とほき多賀路を。

      短歌

雪降りて寒くはあれど梅の花散らまく惜しみ出でゝ來にけり

多賀路はもいや遠にあれば行かまくのたゞには行かず時經ぬるかも

     茂り

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木兔もて鳥とることをよめる
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たらちねの母が桑つみ。兒がひすとつくれるかごの。さき竹のしゞにさし交ふ。五百枝槻もとべをぐらく。しげらへる森のはたてに。となみはり木兔据ゑ待てば。木ぬれ行く鳥のむれ。さひづるや鷦鷯のむれと。目《まな》叩く木兔あなづらひ。おのが尾をさやるを知らに。おのが羽をさやるを知らに。枝うつりいよりみだらひ。とよもせるかも。

    自像に題す

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梁戸といふところの土をとりて自ら吾型をつくる
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いくみ竹やなとの阪の。埴とりてつくれる型。目《まな》しりはえにしだの木の。たれたるや吾目らかも。口もとは騰波のうみの。眞菰なすまばらの髭。その髭はやなき。

     うみ苧集(三)

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白帆
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かぎろひの夕さりくれば。鹽つまる和田つ宮居の。玉かざす少女が伴は。足引のおほやまつみの。山彦に合ひし合はまく。青薦の麥野をよぎて。榛の木の小枝が垂穗を。あさみどり柳が糸を。春風のさゆらさゆらに。裾引にいゆりわたれば。こち/″\の谷付く水の。川しりの八十つ船女が。うはなりのねたみ思ひて。をとめらにい及きあはむと。曳綱の曳かくを遲み。さす棹のさゝくを遲み。尾羽張に白帆は揚げて。日もおちず夕さりごとに。こりせずとひた追ひすもよ。い及きあはなくに。

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いま/\しさのたへがたきことありて
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丈夫の腋挾み持つ。桑の弓梓の弓。弓こそはさはにあれども。吾持つや手握細。細小竹のへろ/\矢。天とぶ雁にさやらず。槻が枝の鷦鷯とらむと。鷦鷯はや木ぬれはうつす。いたづらに吾とる弓の。へろ/\矢あはれ。

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下つまなる狹沼のほとりは吾いとけなき折のすみどなりければ見るになつかしき思ひぞすなる、ことしの春舟を泛べてそゞろに昔のことなどおもひいでければよめる
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わらはべに吾ありしかば舟競ひかづきせりける狹沼ぞこれは

これはもや水たまりの沼種おろす八十水田村へ水くまりの沼

蘆角の萌ゆる狹沼の埴岸に舳とき放ちて吾ひとり漕ぐ

岸のべの穗立柳は茂れどもありける家を見ぬがともしさ

古の二本柳妹に別れ一本立てり水付く柳

二本ありける柳妻なしにたゞ一本にあるがうれたさ

水付くや一本柳人ならば言問はましを一本柳

若草の妻覓ぎかねてひとりある柳を見れば昔思ほゆ

妹柳いまもさねあらば舟寄せて見て行かまくの朽ちにけるかも

狹沼邊の一本柳木根高に立ちさかゆともひともと柳

白波の手搖り振らばひひまもなき一本柳妻なしにあはれ

     茄子

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かねてより土かへおきたる十坪ばかりのところへ瓜茄子などをつくりて
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瓜つくり茄子つくりすと。瓜の葉は蟲はむ故。竈なる灰とりかけ。茄子の葉は日にしぼむ故。楢が枝を折りてかざせば。くゝ立ちに茄子はさかえ。下ばひに瓜はひろごる。ひろごるや藁床の上に。枕なす瓜もよけども。いとはやもなれる茄子の。しりぶとにてれるを見るが。めづらしきかも。

     鳥居

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浪逆の浦より息栖を過ぎてよめる歌并短歌
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