があつた、それは蠶種であるが、一旦卵を洗ひ落して更にアラビヤゴムかなにかですつかりくつけたのである、しかしありうべからざるものであるといふことにして審査しなかつた、なんでも二十八蛾の框製で三十人手間もかゝるといふことである、
 茨城縣のものはそんなところは正直のやうだ、隨て褒賞などは貰はれない、褒賞が貰はれないので出品するものが非常に少ないといふやうなわけだ、
 こんなに暖くては晩霜の恐はあるまいかといふやうな話がいろ/\あつた、
 午後三時叔父歸る、
 皆葉の金兵衛の家の老婆妹に遇ひに來る、嘗て妹が里子に行つて居た家の老婆である、死ぬまでもう遇はれないだらうなと[#「なと」に「ママ」の注記]ゞ繰り返していふのである、八十になるけれど耳はたしかだといふことだ、仕度物を引き出して見せたらなんでも驚いて居た、夕方かへる、飯はくはない/\といつて食つて行つた、
 隣村では豆人形の寄せ太皷[#「太皷」に「ママ」の注記]が鳴る、
 聞けば分家の鷄けふ賣つてしまつたといふことである、
 夜はやく眠くなつた、次で頭が痛くなつた、一日机によりかゝつた精[#「精」に「ママ」の注記]である、
 日記をかい
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