手紙したたむ、麓へ春雨五首をおくる、
 墨を磨らうとしたらば、墨がぽつりと中から折れて指の尖が少しよごれた、
 門の茶の木の下に韮二寸ばかり延び出す、
 枯芝に青味を帶ぶ、
 燒卵、生卵、菜汁、海苔、牛乳、

 五日、木曜、晴、はなはだ暖し、
 朝の内に椚眞木の受取渡しをして來いと母から命ぜられたが用があるからと云つて行かぬ、
 正午に近く高野の叔父來る、茨城縣では比肩すべきものゝ[#「ゝ」に「ママ」の注記]蠶業家である、奥州、四國、九州から傳習生が毎年來るといふことである、雜談、
 共進會や博覽會などは農業に左程利益のあるものではない、
 繭などの出品であつても一ケ所で精養したものを讓り受けて出品するものがいくらもある、
 その方法は飼手が出品するだけを選擇して、その跡を更に選擇したものが一升いくら、その次がいくら、その次がいくらといふ賣買で成立つて居る、信州あたりではこれが非常におほい、
 米や大豆であつても陰干にしたものを一粒つゝ指で剥いて決してすり臼にかけるやうなことはしない、
 しかし近來出品の量を増されためその弊が少なくなつた、
 八王子の共進會で自分等審査した時もひどいの
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