く、『モト山』が居なかつた、『モト山』といふのは伐木を業とするものゝ稱である、北原は『キタツパラ』といふのである、
 不動堂の損木が拂下げになつて枝だけは念佛講の爺さん婆さんで貰つたといふことである、歸りがけに見ると念佛衆の中の『モト山』が二人ではたらいて居た、一人は隣の瘤爺で焚火の側で鋸の目を立てゝ居る、一人はカシラといふ小男でねじ折れた木に乘つて枝を伐つて居る、カシラがいふのに、二十一の時に鴉の巣を捕りにこの木のテツペンまで登つたつけ、と念佛衆といふは難有いもので貰ひたいといはなくつてもみんなが呉れるつていふんだからたいしたもんだ、これだけの枝ぢやしばらくあたれらあ、明日は初午だから仕事は休まなくちやならねえ、去年の初午にや鋸をはねらかしつちやつて馬鹿な目に遇つちやつた、などゝ獨言をカシラがいつて居る、
 正午過ぎ、無闇に雜誌を披く、
 酒糟を賣りに來る、妹買ふ、
 頭の具合惡し、暫らく横になる、松葉を掻く熊手の音がガサ/\と聞こえる、
 平方の祖父來り『モト山』來る、
『モト山』と共に眞木調べに行く、刺の生えた木をなんだと聞けば、『ウコギバラ』といふのだといはれた、
 夕方表へ笹
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