ゝ娘である、襷がけの草鞋拵へで、荷鞍には二升樽位の大さの夫れよりは稍長い古ぼけた樽が兩方に一つ宛つけてあつた、行き違ひに手綱をしごいて、左の手で馬の轡をとつてむつとした顏で過ぎ去つた、
 目の下には大北川の流が奔つて居る、對岸に少しの平地があつて、水の流がその平地を蹄の形にめぐつて居る、古い小屋のやうなものがところ/″\に見える、炭竈の趾である、樹木は大抵伐採されて、櫟であらうか人の立つて居るやうな木の株がぼつり/\殘つて居る、凄凉たるさまである、
 流のほとりまで下る、鼻を突くやうな向ひの山は悉く落葉木であるから狹いにしてはあたりがからつとして居る、萱のなかに馬が一匹じつとして立つて居る、
「あれは私が放して置くんですが、舊正月の二日からうつちやつてあるんです、子が止まつてから三月四月になりましよう、奇態なことにあの馬は生れながら後足が三寸ばかり短いのでとても役に立たねえのです、腰越あたりの奴等はそこらの馬を捉へちや萱を背負はしたとか、代を掻かしたとかいふんですがあの馬ばかりは手をつけません、自分でまた體が不自由なものですから決して遠くへ行かねえんです、えゝなに、食ひ物さへありやどの
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