あさつて居る、土中に在つて鳴くかと思ふやうな微かな蛙の聲が聞える、
山と山との間から僅に露はれた頂には雪が眞白である、二三日此方降つたものであらう、田の向うには周圍が皆燒山で只一つ芝も燒けず常緑木の僅にしげつた小山がある、獵師はそこを指して語り出した、
「あすこで秋から兎を十六七も打つたんですが夫れでまだ七八つも居るんです、周りがあの通りですから遊び廻つちやあ、あすこへ來ると見えるんです、兎といふ奴は馬鹿な奴で追ひ廻はされると、しめえにや元の所へ來つちまふんですから根氣よく追つ掛けりやあ屹度捉へられるやうなもんです、夫れでも又能のあつたもので、犬が追つて行つて今一息といふ所になるとひらつと脇へ開く所がどうでしよう、それを二度もやられると犬は飽れて追はねえんですがね、
「さういふものですかね、此間は茶圃に兎が眠つて居たといふと、丁度法事の時なものですから若い衆が三四十人で取卷いてとう/\魚扠《やす》で突つ殺してしまひました、全體ことしは兎が居るやうですな、
獵師は物をいふ度に揃つた長い眞白な齒を剥き出す、坂を少し下る、十八九の娘が馬を曳いてのぼつて來た、米桃のやうな頬の赤い肉つきのい
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