妙な奴で、直ぐに死んだ振りをします、人がひよつと見るとごろつと轉がつて、少し見ねえ振りをして居るとそろ/\起き出して見て、又ひよつと見るとごろつと轉がつてしめえますが、手拭で喉を括つて引つ擔いで來ても騷がねえんですからをかしな奴ぢやあありませんかねどうも、
 行く/\話が途切れない、獵師の言葉は思ひの外に丁寧である、たま/\路傍に甲の落ちた炭竈がある、土は眞赤に燒け切つて居てそこら一面に粉炭が散らばつて居る、燒けた土をとつて見た、小石交りの砂目である、かういふ良い土で一つ炭竈を築いて見たいと思つた、
 綻び掛けた梅がほの白く見えるのみで、人の氣も無いやうな腰越といふ小村へ出た、上り坂になる、振り返ると小さな山々を見越して眼界は漸く濶々として來たが霞が一面に棚引いて居るので明瞭に分らない、見える筈だといふ海が灰色に空と一つである、あれが磯原の松林であるといふのが、さう思へばさう見えるといふ位に過ぎない、坂を登りつめて休んだ、足もとを見おろすと僅に麥畑が作られて、そのさきには段々の高低を成して田が形つてある、麥畑のめぐりには垣のやうに拵へた無雜作な駒除がある、放牧の馬が五六匹そここゝに餌を
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