やうな感じがした。凌霄のやうだと思ひながら復た女を見ると此度は四本の指を前へ向けて勾欄へ兩手を掛けて一心に燒木杙を見おろして居る。余は其白い横顏をしげ/\と見守つた。さうして此優しい靜かな昨日の浦を前にして何時までも只立つて居たいやうな心持がした。其時丁度帳場で呼ぶ聲が幽かに聞えた。飽かぬ美人は三階を去つてしまつた。余も二階へ還つて冷え切つた茶を啜つた。
兩掛《りやうがけ》の荷物を手に提げて梯子段をおりて行くと女は既に洗濯してすつかり乾かした脚袢を出してくれた。底の拔けた足袋も一所に置いてある。足袋にはまだぬくもりが殘つて居る。今まで火へ翳して乾かしてあつたに相違ない。女は更に土間へおりて新しい草鞋の紐を通して小さな木槌で其草鞋をとん/\と叩いて呉れた。さうして余の後ろへ廻つて兩掛の荷物の上から※[#「蓙」の左側の「人」に代えて「口」、361−14]を着せてくれやうとする。然しこの着せて貰ふことだけはしなかつた。何故だか默つて着せてもらふことがしえなかつたのである。其時の心持は後では自分にも分らぬ。※[#「蓙」の左側の「人」に代えて「口」、361−16]だけは昨日の雨でぬれた儘|強《
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