、大きな荷物の上から掛けましても荷物が濡れんやうに出來て居りますのでございます。博勞さんは頭から冠りましても泥を引き擦るやうになりますので簑が歩くやうだと申してみんなが笑ひましたのでございますと女は思ひ出して堪らぬといふ樣に笑つた。余は思はず女を見ると女も同時に余を見た。見た目にはまだ笑を含んで居る。余等は二尺計に開けた雨戸の間から躰の擦れ合うた儘外を見て居たのである。向き合うて見るとあんまり近いので急に何だか面ぶせに感じたので余は視線を逸らして其口もとを見た。口には鮮かに紅がさしてある。余は此の如き場合の經驗を有して居らぬので只兀然として女のいふことを聞いて居るのである。女は只無邪氣に耻らふ所もないやうな態度である。それ丈余は更に平氣で居憎い氣持がした。譬へていへば女は凌霄《のうぜんかづら》である。凌霄はふしくれ立つた松の幹でも構はずに絡みかゝる。松の幹がすげなく立つて居てもずん/\と偃ひのぼつて枝からだらつと蔓を垂れて其處に美しい花を開く。其花は此女が一つ噺をしては又噺をするやうに落ちては開き落ちては開いて自ら飽くまでは其赤い大きな花が咲いて止まぬ。余は自ら凌霄にからまれた松の幹の
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