こは》ばつて居る。草鞋の代が幾らかと聞いたら此は一足進上するのであるから代は要らぬといふことであつた。女は又赤泊の街道へ出る處まで教へてくれるといふので二三町余と共に跟いて來た。電信柱から左へ曲ると此からは一筋道で赤泊より外には何處へも行きやうはないからどうぞゆつくりお越しなされと辭儀をする。余は此時もしみ/″\美人だと心に深く思ひながら女の姿を見た。
 街道は磯へ出る。薄霧の中に越後の彌彦山が眞向に見えてそれから南へ下つて稍遠く米山が見える。共に大きな島の如くに聳えて居る。海は極めて平らな※[#「さんずい+和」、第4水準2−78−64]である。沖の岩のめぐりに纔に動く波が日光を受けて金の輪を嵌めたやうにきら/\と光る。汀に近い蕎麥畑には蕎麥の花が眞白に咲き滿ちて居る。さら/\と輕くさし引く波が其赤い莖のもとへ刺し込んでは來ないかと思ふ程汀に近い畑である。

      三 南瓜

 街道は小山の間に入る。羽茂川に添うて行くと少しばかりの青田があつて青田へは小さな瀧が落ち込んで居る。瀧の側からは杉の大木が聳えて其杉の木には蝋が流れたやうに藤の實の莢が夥しく垂れて居る。丁度そこへ來かゝつ
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