1-87-88]瑰の花を出して一つ一つランプの下に並べた。障子を開けて出ると帳場がすぐ下に見おろされる。此帳場といふのは天井を一つぶち拔いてあるので其天井は二階の天井と一つに成つて居る。夫故二階の客間から出ると勾[#「勾」は底本では「曷-日」]欄があつて勾欄の下に帳場が見おろされるので劇場の棧敷から土間を見るやうに出來て居るのである。帳場のさきには勝手が見える。竈の側ではさつきの女が串へ立てた魚の切身のやうなものを燒いて居たがそれを箸でおさへて皿の上で串を拔いたら襷を外して四つに折つて帶の間に挾んだ。左にお鉢を抱へて右に膳を持つて立ち上つた。余はそつと障子を締めて蒲團の上へ坐つた。此夜は客といふのは余一人であるので別に支度もしなかつたから冷たくなつたが此で我慢をして呉れというて茶碗には小豆飯が堆くつけてある。女を見ると紺飛白の單衣に白地を重ねて居るのであつた。さつき裾から白く見えたのは此白地の丈が長かつたからに相違ないのだ。紺飛白も幾度か水をくゞつて紺が稍うすぼけて居る。此野暮臭い支度をして居ながら女は端然として坐して居る。やつぱり美人である。余が箸を手にした時に女は※[#「王+攵」、
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