拭つて手帖へ挾んでシヤツの隱しへ押し込んだ。
小木の港へ辿りついたのは黄昏近くであつた。相川の町では木賃のやうな宿へ泊つて流石に懲り/″\したのであつたから此所では見掛の一番いゝ宿へ腰をおろした。女が表の二階へ案内する。軈てランプを點けて來る。室内が急に明るくなる。此宿はまだ建築して間もないと見えて木柱から疊から頗る清潔で心持がよい。掃除したランプのホヤが殊に目につく。女は更に茶を出して呉れる。氣がついて見ると此女は驚くばかりの美人であつたのだ。まだ二十には過ぎまいと思ふ。佐渡のやうな豫想外に淋しい島へ渡つてこんな美人に逢はうとは全く思も掛けぬ所であつた。美人といふ以外に此女を形容の仕樣はない。余は一日雨を凌いだ爲め單衣もズボン下も濡れきつて旅裝が一層みすぼらしくなつて居るので此女に對して何となく極りの惡いやうな心持がした。障子を開けて女の出て行く所を見ると紺飛白の單衣の裾に五分ばかり白いものゝ出て居るのが目についた。女の出て行つたあとで余は直ちに帶を締め直した。然し一日尻端折つた單衣の縮んだのはどうしてもうまくは延びなかつた。さうして余は手帖に挾んであつた※[#「王+攵」、第3水準
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