頭の上に紙が貼りつけてある。番組と書いてあつて三番目には三井寺とある。博勞は荷物をこゝへ頼むがよいといつて余の荷物をとつて自分の草鞋と余の草鞋とを一つに括つて婆さんに渡した。ぎつしりと詰つた人の後に二人は漸くに立つた。見ると此の本堂といふのは新築したばかりでまだ壁の上塗もしてない。中央の板の間を殘して左右はそこにも人がびつしりと坐つて居る。廊下も前の人は皆坐つて居る。女や子供も交つて居るが膝へ抱かれた子供迄が大人しくして居る。正面には白の幔幕が張りつめてあつてチヨン髷結つた七十以上と見えるひよろ/\した老人と若者とが麻裃をつけて端然として居る。鼓が足もとに置いてある。幔幕の際には此外坐つて居るのが四五人ある。板の間のこちらの隅には青竹を折り曲げて櫓の形に組んだものが立つて居て小さな釣鐘の形が下つて居る。釣鐘からは長い紐が板の間へ垂れて居る。本堂のうちは此丈である。軈て老人が鼓を膝へとると若者は鼓を左の肩へとる。赤い紐がだらつと老人の膝からさがる。老人は笹の葉を押し揉んだやうな掛聲をしぼり出して右の手を徐ろに一杯に擧げて打おろすと鼓はパチツといふ音がする。若者は太い聲を掛けて斜に打あげる
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