しい栗毛虫はそこにもこゝにもぢつとして動かないで居る、いきなり叩いてやるとぢきに落ちる奴もあるが、大概尻のところでつかまつた儘ぶらつと下る、二つ三つ續けざまに叩くとボタと音がして落ちる、枝から枝へ引き攀ぢては叩き落し/\打ち落してしまつた、毛虫は動くことも出來ず木の下一面に散らばつて居る、打つちぎれた小枝も毛虫の糞の上に散らばつて居る、
四五十匹もある毛虫を潰すのも穢い、どうしたものかと毛虫を掻き寄せながら考へた、この虫の體から立派な糸が引き出せるといふことを聞いたことがあつたがどうすればよいのかと思つて居ると隣の家の婆さんが通り掛つた、自分は婆さんにその方法を尋ねると婆さんは一向知らないといふことであつた、この婆さん酒を飮むことだけは達者だが、こんなたしなみはないと見える、すると突然うしろから
「婆ア
と呼びかけたのは婆さんの孫で四つ位になる兒である、ぢき筋向ひの分家の木戸から出て來たのである、豆を一杯にもつた汁椀を持つてあぶな相に歩いて居る、婆さんにこ/\しながら振り返つて
「この野郎なに貰つて來たハハハ……
といひ乍ら自分を見て笑ひつゝ豆の椀をうけとつて孫の手を引いて行つて
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