仕舞つた、
この婆さんのまた隣の婆さんは物知りである、その婆さんならば屹度分るだらうと自分は態々聞きに行つた、上り鼻の火鉢の脇にごろりとやつて居た婆さんはむつくり起き上つて目を擦りながら澁りがちにいつた、
「ヘエーかう二つに裂いて酢で引き出すんでがす、ヘエー背中ンとこに糸があるんでがす、なんでも釣糸にすると強えなんて、せんの頃は言ひ/\しつけがなあに誰だつて取れあんすともせ
わけもないことだといふのであるから自分もやつて見やうと思つたが生憎に酢がない、買ひに遣つても五六町はある、それも品切になつた日には河を渡つて買つて來なければならぬ、それも面倒でたまらぬ、妹が庭の隅へ圍ひをして鶩を飼つて置くから、鶩の餌にしてしまふことにした、
鶩を飼つてある柵は井戸の側の梅の木の下である、漸く羽の生えかゝつた鶩が十羽放してある、鶩は非常に食慾の強いもので喉までつまるまでは餌を貪る、それも僅かの時間が立てばがあ/\いつて求めて止まない、自分が栗毛虫を投げ込んだ時に饑に向つて居つたので柵中の騷擾は非常である、眞先に立つた奴が喙へて隅の方へ逃げて行くと忽ち五六羽その跡を追ひ掛ける、ずるい奴が横合から
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