あがつて來たものがある。
彼は兼次を見ると
「なんのざまだ奴等アハヽヽ」
唐突に惡口をいひ出した。
「いゝから羨《やつか》むなえ」
兼次はすぐにやり返す。
「篦棒いつまでたつても夫婦にも成れねえやうな奴等なんでやつかむかえ。親爺奴きかなけりや喉ツ首でも押してやれ。やくざな野郎だあ」
平生惡口をいひ合うてる間柄だけに思ひ切つた憎まれ口を叩いて去つた。おすがは彼等が來た時すぐに立つてうつぶした儘さつきのやうに土の塊をほぐして芋をぼり/\とはがして居た。兼次も別に氣にするやうでもなくおすがと別のうねの芋をはがして俵へ入れはじめた。
二
兼次とおすがの間柄は久しいものである。それで今では拾い手のない日蔭物といふ形に成つて居る。
百姓の間に生れた子は隨分粗末な扱ひである。お袋が畑で仕事をして居れば笠の中へ入れて畑境の卯つ木のもとへ捨てゝおく。泣いて泣いて火のついたやうに泣いても滅多に構へつけることもない位だから隨て營養も不足なのか六つ七つまでは發育の惡い子も數々あるが、手足がついたとなると容赦もなくこき使はれるので其故か十七八に成ると驚く程立派な體格を持つやうにな
前へ
次へ
全50ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング