立てゝ入れる。さうして穴の土を手のさきでならして先の塊をほぐす。乾いた畑に濕つた丸い穴のあとが一つづゝ殖えて行く。日光が其土をあとから/\とこまかに乾かして行く。芋の株を掘り畢つた時に兼次は鍬へついた土を草鞋の底でこき落して茶の木の株へ腰をおろした。鉢卷をとつて額を拭つて居る。小春の暖かさはちく/\と痛いやうに痒いやうに毛穴から汗がにじみ出すのである。おすがも兼次の側へ來た。うつぶしに成つて居た爲かおすがの顏もほてつて居る。村の若者が一人馬へ大根を積んで來た。若者はぱか/\と四つ脚の拍子よく走せて行く馬の後から手綱を延ばして踉いて行く。
「どうした、奴等がつかりしたか」
兼次を見て若者はいひ捨てゝ去らうとした。兼次はそれには頓着なしに
「大根一本おいてけ」
立ちあがりながら叫んだ。若者は
「どう/\どうよ」
馬の口もとを止めて、ぎつしり括つた荷繩から一本引つこ拔いて
「そら二人で喰ふんだぞ」
と兼次を目掛けて抛つた。大根は茶の木へがさりと止つた。兼次は菜刀で大根をむいて噛りはじめた。大根には幾らかの辛味はあるが兼次の乾いた喉にはそれでも佳味かつた。其所へ又一人鍬を擔いで田甫から
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